小学校三年生の時、同じクラスに、先生を困らせる問題児がいた。
彼は絶対に自分の意志を曲げなかった。帰りたいと思った時は誰の制止をも振り切って家に帰ったし、よほど算数が好きだったのか、どの授業でも、常に算数の教科書が彼の机の上でページを繰られていた。
彼とは友達と言える間柄ではなかったが、とりわけ仲違いしていたわけでもなかった。そもそも彼とまともに会話した記憶さえないのだ。おそらく、子供ながらに彼を異質なものと考え、根本的に自分とは関わりを持たない人間なのだと、意識の外で捉えていたのだと思う。
もはやその頃の思い出も靄の中で見失おうかという時期に、何故彼の事をそこから引っ張り出したのかはよく分からないが、確信をもって言えるのは、人知れず彼の行動を肯定し、敬意にも似た心象を彼に抱いていた自分が、あの時のあの教室にいた、ということだけだ。